
先端エレクトロニクスのパラダイムシフトにより、必要な電子材料(素材)の性能も変化しています。5G、EVなどの技術を達成させるには、どのような役割や性能を持った電子材料が必要なのでしょうか?
本記事では、5G時代に欠かせない電子材料となっている、高分子ポリマーについて、役割や性能を解説します。
目次
現代社会に欠かせない、高性能な「高分子ポリマー」
1-1 「高分子ポリマー」とは何か
高分子ポリマーという言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。しかし、あらためて「高分子ポリマーとは何か?」と聞かれると、正しく説明できない方もいるかもしれません。 高分子ポリマーの「ポリマー」とは「重合体」のことで、モノマー(単量体)が多数、繰り返し結合したものです。いわゆる樹脂のことで、簡単に言うと、プラスチック類全般を指すと考えておおむね間違いありません。ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリ エチレン テレフタレート)などの「ポリ」がポリマーのことを指しているのです。
1-2 あらゆるところに活用されている「高分子ポリマー」
高分子ポリマーには、さまざまな種類があり、それぞれに特性が異なります。用途に応じて、さまざまな高分子ポリマーが開発され、使用されているのです。 「プラスチック用品」など、多くの人が目で見ることができるものに限らず、エレクトロニクスの分野でも、高分子ポリマーが欠かすことのできない電子材料となっています。
下記に、主な高分子ポリマーの種類と、用途をまとめました。
高分子種類 | 用途 |
---|---|
ポリエチレン (PE) | 日用品 |
ポリエチレンテレフタレート (PET) | ペットボトル |
ポリスチレン (PS) | 緩衝材 |
ポリアミド (PA) | 自動車部品 |
ポリイミド (PI) | 絶縁膜 |
ABS樹脂 (ABS) | 旅行用トランク |
メタクリル樹脂 (PMMA) | 液晶ディスプレイ (LCD) |
ポリカーボネート (PC) | ノートパソコン |
フェノール樹脂 | 電気/電子部品や自動車用ブレーキ |
メラミン樹脂 | 電気スイッチや食器 |
エポキシ樹脂 | IC基盤や床材 |
5G時代に活躍する「高分子ポリマー」
2-1 5G規格が持つ通信特性
いま、スマートフォンを始め、さまざまな通信で使われる規格が「5G(第五世代)]に移り変わりつつあります。これまでと比較して、飛躍的に大容量、高速での通信を実現する5Gには大きな期待が寄せられています。5G規格が持つ通信特性は大きく次の3つに分類できます。
- 大容量・高速
- 超高信頼性・低遅延
- 多数同時接続
信頼性が高く、遅延がほとんどないことに加えて、多数のデバイスが同時に接続できることで、誰もが「常時、大容量の通信を、遅延なく行う」通信を前提としたサービスが実現可能となります。
例えば、カーナビゲーションシステムでは、現在の道路状況を踏まえたリアルタイムでの最適なナビゲーションが実現できます。また、スマートフォンでは、Webカメラで撮影している家の中の様子を遅延や画質の低下なく、リアルタイムで見ることが可能になります。
いわゆる「IoT(モノのインターネット)」は、家電などを含めたあらゆるものがインターネットでつながることにより、これまで得られなかった情報が得られ、生活が便利になることを指します。そのためには「大容量の高速通信を実現」「多数のデバイスが同時に接続しても遅延などが発生しない」ことが条件となります。まさに5Gは「あらゆるモノがインターネットでつながった社会」を実現するための通信規格なのです。
2-2 5G時代における「高分子ポリマー」の役割
多くの電子部品には、高分子ポリマーが原材料として使用されており、その多様な機能性で電子部品の性能に貢献しています。
5G規格の通信環境では、高速で大容量の信号をやりとりするためのメモリ増強、CPUの強化が必須です。また、常時接続を実現するには、室内などの限られた環境ではなく、屋外の環境も前提とすることが必要になります。 大容量の通信では発熱のリスクが高まり、高速通信での伝送損失を抑えなければなりません。加えて、デバイスの小型化も重要です。使用される電子部品には、これまで以上に、高い耐熱性や誘電率、小型化に対応する加工性の高さなどが求められます。それを実現するのが、高分子ポリマーの役割なのです。
5G時代には、高分子ポリマーにこれまで以上の高い性能が求められます。次項では、5G時代に求められる高分子ポリマーの性能について解説します。
5G時代に求められる、「高分子ポリマー」の3つの性能
- 耐熱性・耐久性
- 低誘電率・低誘電正接
- 加工性の高さ
5G時代に求められる高分子ポリマーの性能は、「耐熱性・耐久性」「低誘電率・低誘電正接」「加工性の高さ」の3つに分類できます。
性能1 耐熱性・耐久性
大容量の電気信号を高速で送受信すると、熱が発生します。ノートパソコンやスマートフォンが発熱するのも、これが一因です。5G時代になると、いままで以上に高速で大容量の通信が行われるため、熱への対策が必須となります。一般に物質は、熱が加わると膨張、変形します。すると、電子部品は性能を発揮できない、あるいは故障してしまうことになります。そこで、耐熱性が高く、熱での変形が少ない高分子ポリマーが求められます。また、自動車などに搭載される電子機器では、屋外での過酷な環境でも性能を維持できる高分子ポリマーが求められています。
性能2 低誘電率・低誘電正接
大容量の情報を高速で処理する際、これまでより高い周波数の電気信号が用いられます。特に5G通信では、10GHz以上の高い周波数帯の電気信号が用いられ、大容量のデータ通信が想定されます。一般的に周波数が高くなると伝送損失が大きくなることが知られており、「誘電率」「誘電正接」の低い材料を適切に組み合わせた高分子ポリマーを使用する必要があります。このような性能を持つ高分子ポリマーを電子基板などに使用することで、低消費電力、かつ低遅延の通信が実現できるのです。
性能3 加工性の高さ
電子機器の小型化への要望は高まる一方です。スマートフォンや車載機器などでも小型化が進んでいます。電子機器の小型化を実現するためには、高密度の加工が可能であり、靭性(じんせい)、剛性にも優れている高分子ポリマーが不可欠になります。IoT社会の実現には、あらゆるものに通信機能を持たせる必要があり、電子機器の小型化は必須条件です。それぞれの形状、大きさに応じた加工が可能な物理特性が、高分子ポリマーに求められます。
小型化に耐える加工が可能な特性を持つこと、小型化しても耐熱性、耐久性を失わないこと、低誘電率・低誘電正接、あるいは絶縁性能を有することなど、高分子ポリマーに求められる性能は高度かつ多岐にわたります。多様な条件を満たすには一つの素材だけでは不可能です。複数の異なる高分子ポリマーを組み合わせる、要求性能に合わせてチューニングしていく、素材をカクテルしていく必要があります。時には、あまり一般的ではない原材料を用いることもあります。 それらを総合し、求められる性能の高分子ポリマーを生み出すことが、これからの5G社会の実現には欠かせないのです。
5G向け電子材料に適用可能な、JFEケミカルの「高分子ポリマー(ポリイミドモノマー、ポリイミドワニス)」
BPDA(3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)
ポリイミドの重要な原料の一つで、耐熱性や電気特性、物理特性を向上させます。JFEケミカルでは高度な精製技術を用い、色相の良い低金属、低ハロゲン品を提供しています。

DAPE(3,4-ジアミノジフェニルエーテル)
非対称構造のエーテル鎖を持つ芳香族ジアミンで、分子屈曲性の制御に有効です。高度精製により色相が良好で、かつ高純度品を提供しています。

BAFL(ビスアニリンフルオレン)とBPAF(ビス無水フタル酸フルオレン)
カルド構造(蝶番構造)により光学特性と耐熱性を両立させることができます。分子中に自由体積を与えることで低誘電率化、低誘電正接化にも寄与します。

ポリイミド前駆体ワニス「JIVシリーズ」
強靭性、高伸度のフィルムが得られるポリイミド前駆体ワニスを、低粘度~高粘度のものまで取りそろえています。複写機、半導体周辺用途で多数の実績があります。お客さまのご要望にそったカスタマイズも可能です。

私たち、JFEケミカルでは、上記の高分子ポリマーにとどまらず、希少な材料も取り扱っています。求められる性能に最適な高分子ポリマーを新たにチューニングし、提供することも可能です。
まずは、下記の資料をご覧いただくか、メールあるいはお電話にてご相談ください。